2010/01/05

寂しい国の龍馬伝

ちょうど12年前の寅年1月に、もうひとりのムラカミ「村上龍」が『寂しい国の殺人』という本を出版している。


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「現代を被う寂しさは、過去のどの時代にも存在しなかった。近代化以前には、近代化達成による喪失感などというものがあるわけがないから、わたしたちは、現代の問題を、過去に学ぶことが出来ないと言うことになる。今の子どもたちが抱いているような寂しさを持って生きてきた日本人はこれまで有史以来存在しない」

「それなのに、相変わらず過去に学ぼうとしているのは主に偏差値の低い中高年の男達だ。織田信長だろうが坂本龍馬だろうが吉田茂だろうが、彼らが今生きていたとしても、例えば帰国子女の悩みにも答えることができない。それなのに、信じられないことだが、織田信長に学ぶ危機管理術というような特集を組む雑誌が未だにあとを断たない」

「だがバカな中高年の男たちのことはもう放っておくしかない。自分のこれまでの人生を否定することになるので、よりよい集団に属するという価値観を彼らは死ぬまで変えないだろうし、退行と反動化の中枢を担っていくはずだ」

「排除と制裁という解決策は、正しいとは思わないが、近代化途上の国だったら有効だと思う。この国のメディアは、2年前、オウム真理教になぜあれほど高学歴の人間があれほど多数入信したのか、ほとんど問わなかった。女子高生が援助交際する理由も問わない。ブランド品が欲しいからという女子高生側のこじつけを信じているが、マクドナルドで半年アルバイトをしてプラダのバッグを買う子はいない」『寂しい国の殺人・村上龍』



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「現代を被う寂しさ」ということばが指し示すところの空気は、2010年になって、都市部だけでなく、いっそうリアリティーをもって全国に広がっている。「今の子どもたちが抱いているような寂しさを持って生きてきた日本人はこれまで有史以来存在しない」ということばは本当だと思う。

「寂しさ」はキーワードである。本当に寂しい時代だ。どこもかしこも寂しすぎる。

大河ドラマ「龍馬伝」が始まった。

ドラマは見始めると結構続けて見る。見ないと決めたら一切見ない。そんなことどっちでもいいが、そういう性格である。

とりあえず第1回目の録画を観た。好んでご覧になる方も多いと思うので、出来るだけ無粋なコメントは避けよう。そう思って村上氏の本を引用した。

大河ドラマそのものよりも、なぜ今このドラマなのか、この人物がこんなふうに描かれるのかに興味がある。

異常なまでの龍馬人気の背景には、やはり国民全体に国を憂う気持ちや、気骨のあるリーダーの到来や抜本的な改革への願いがあるのだろう。

ただ、Salt史観によると、薩長連合を画策の首謀者はおそらく西郷であり、失敗したときの為に龍馬のような脱藩藩士を人材として求めていたのだと思う。もちろん龍馬がその期待に応える魅力のある人物であったことには違いないが、あまりにも脚色が強すぎる。成り上がり話は尾ひれを付けやすいし、早死にすると英雄になってしまうのだ。

それと熱烈な龍馬ファンには、思考の柔軟性が乏しく、意思の貧弱な、龍馬とはかけ離れた奴がけっこう多いということも付け加えておきたい。

今、この国に育つ子どもから、龍馬なんて間違っても出て来るはずがないし、仮に出て来ても何の役にも立つまい。すでに、さまざまな前提は壊れ果てている。

(追記)ちなみに私は、オウム事件にこだわって大学を去った養老孟司氏と、女子高生の援助交際の背景を追求する宮台真司氏の言説は興味深くチェックしている。彼らは村上氏が指摘している多くの人が問わない問題についてキチンと自分のことばで語っているからだ。

8 件のコメント:

  1. ちょっと 覗いてみました。
    チェックする人 私は藤原信也です。

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  2. 藤原新也とは別人なんですよね。

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  3. >それと熱烈な龍馬ファンには、思考の柔軟性が乏しく、意思の貧弱な、龍馬とはかけ離れた奴がけっこう多いということも付け加えておきたい。

    面白いですね。ワンパタンの刷り込みによるイメージの構築と肥大化現象。"竜馬"はそれぞれの内的欲求を投影するには格好の対象なのでしょう。今、読んでいる『三国志』の諸葛孔明なども同様の現象が起きているようです。彼はどうもあまり有能ではない参謀だったようですが・・・。リアリティとは何か、これを誤るととんでもない刈り取りをするわけですが。

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  4. Lukeさんどうもです。

    いくら時代考証や方言指導をしっかりしても、リアリティーがまるで感じられない。逆に20世紀少年みたいな荒唐無稽なドラマに妙なリアリティがあったりする。変ですね。

    ちなみに、私が一番感情移入できる三国志は、NHKの人形劇三国志なんです。これ、はっきり言ってかなりの名作です。さすが、人形浄瑠璃の国ニッポン!って感じです。すでにチェック済みかも知れませんが・・・・

    川本喜八郎という人形師の作った人形たちが、生きた役者以上に力があります。たぶんYou Tubeで部分的に見ることができます。

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  5. あら、まっ。 
    藤原新也でした。(#^.^#)

    宮台慎治で検索したら「もしかして宮台真司」と
    出たので、おぉー突っ込み所! と思いましたが、
    同じ人ですね。内容が難しくて訳が分からないのは
    両方同じでしたから。

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  6. 宮台真司でしたね。失礼しました。漢字の間違いは本人にも失礼ですよね。宮台氏とは少しだけ喋ったことがあるんですが、本やTVの印象とは、いい意味で少し違ってましたね。

    藤原氏は、私が行こうかなと願書まで取り寄せていた東京芸大油絵学科を中退してるんですね。やっぱり横道に逸れてる人はオモロイです。

    私は横道に逸れて教師になんぞなってしまいましたが。

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  7. ほんと、そうですね。不思議なこと。前に角川春樹が『蒼き狼』という学芸会的駄作を作りましたが、対してセルゲイ・ボドロフの『モンゴル』は浅野忠信が主演でしたが、重いリアリティがありました。この違いは何なのだろう。

    ・・・というか、現実世界がすでに"911"のようなフェイクで満ちてるわけですから、『20世紀少年』の方がもっともに見えてしまうのも当然かもです。今後、このような倒錯現象がさらに増えると思います。

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  8. それにしても、911のフェイクはあまりにもスケールが大きすぎますね。

    物理がイマイチ理解出来ない人も、BBCのビル倒壊予言アナウンスには納得でしょう。

    オウム事件の論理と新大陸発見~西部開拓の論理はほぼ同じですから、それを受け継ぐキリスト教界のリバイバルの論理も相似形なのは仕方ないことですね。

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