2011/03/29

お幸せに

花粉症の症状がひどくなってきたので、久しぶりに耳鼻科に行った。
待合室の隅にしょぼくれた姿で座っていた私に「先生」と明るい声をかけてくれたのはこの病院で働くN子。清潔感のある制服がよく似合う。

「実は、先生が来られないかなと思ってたんです。会えて良かったです。」
「結婚、おめでとう。岐阜へ行くんだって」
「はい」
「ちょっと、遠くなっちゃうね」
「仕事も明日までなので、すごいタイミングです」

彼女はパティシエを目指して修行していたが、腰を痛めてお菓子作りを離れ、現在の医療事務へ転職していた。

ちょうど7年前のこと。彼女が働いていたケーキ屋さんにそうとは知らずに立ち寄ったところ、今日と同じように声をかけてくれたことがあったのを思い出した。

「もう、お菓子は作らないの?」
「いえ、将来はカフェをしようかって話しているんです」
小学校のときと同じ、すごく綺麗な目をしている。
N子を選んだ男は幸せ者だ。
「それは、いいね」

「ちょっと、マリッジ・ブルーなんです。」と、N子は言った。
花嫁の思いや覚悟は、いつも花婿のそれとは違う。
新しい大きな一歩を踏み出す為に、これまでのことをあれこれ振り返っているのだろう。そう思うと、小学校時代も花嫁になる為の準備の期間だったのだ。
30歳を過ぎてこちらがドキッとするほどのレディになっても、私と話すときっと一瞬10歳に戻れるのかも知れない。周囲の同僚の目も気にせず、私のケータイ番号を確認して、両手で握手を求めてくれた。

町で教え子に会っても、先生風を吹かすのは嫌いだ。
だから、町で教え子を見かけても、ほとんどこちらからは声をかけることはない。
子どもが必要としないときに、先生は先生である必要はない。
「24時間教師は教師だ」なんて・・・私は全然思っていない。
でも、今日は本当に嬉しかった。

「お幸せに・・・」

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