2010/02/03

「アバター」のリアリティー

最近なぜか仕事上のストレスがけっこう大きい。何やかんや言いつつ、やはり私は真面目なところがあるようだ。「いつも遊び半分」は前にも書いたが、つまり思いっきり遊んでいるのと同じくらいはいつも真面目だということ。

仕事に慣れて余裕が出て来ると、いろいろ考えて手を打ってしまう。そして、問題が起こると、気がつけばギアをローからセカンド、セカンドからサードへとチェンジして加速してしまう傾向にある。ここに来て、仕事に慣れて余裕が広がったのと、相次いで現場でいろんなことがおこるのでちょっと熱くなってしまった。私自身の納得や手応えを求めると、逆に周囲を混乱させることもある。クールダウンが必要だ。真面目が増して来た分だけ、遊びを増やさないと「半分半分」という私のとっての正しいバランスが壊れてしまうではないか。

基本的に私は自分のことでは悩まないので、現場を離れてちょっと深呼吸をすれば、「他人事」をどの程度「自分事」として負うのが「他人」にとってより有益かを整理できる。
こういうバランスを取りたいときは、非創造的な消費型娯楽に限る。ちょうど使わずに残してあった文化鑑賞補助チケットがあった。はからずもmovix橿原ではなく東宝シネマで申し込んでおいたので、今話題の3D映画「アバター」を見ることが出来た。

「アバター」とは、「分身」という意味で、チャットなどのコミュニケーションツールで、自分の分身として画面上に登場するキャラクターのことだが、語源はサンスクリットで、神々や仏の化身を指す。 伝統的にネット上のコミュニケーションは文字だけで行なわれていたが、「アバター」を使うことによって実世界のコミュニケーションと同じように表情や動作による豊かな表現が可能となり、若い世代を中心に広がっている。

「アバター」(分身)にしても「サロゲート」(代理)にしても、バーチャルとリアルの錯綜と葛藤という今日的なテーマを扱っており実に興味深い。いずれも作品としての深みにはいささか物足りなさを感じるが、娯楽作品としては十分な出来である。私は現場の一教師として、バーチャルリアリティーの現実を見極め、その切り分けが明確にすることがこれからの子どもに対応する鍵だと思っているので、この2本の映画は研修教材としても内容が豊富。

いずれの映画も、主人公がふたつの世界の間で葛藤した末の選択の結果を鑑賞者が共有させられるかたちで終わるのだが、その結果が反対なのが興味深い。ネタバレさせるとつまらないので控えめの表現にとどめるが、サロゲートでは、「バーチャルからリアルへ」という方向に対して、アバターでは「リアルからバーチャルへ」というベクトルの向きである。これは、「どちらがよりリアルに感じられるか」ということが鍵になっている。さらに主人公の年齢や世界観にもポイントがある。サロゲートの主人公は中年であり、アバターの主人公は青年である。彼らの人生に対する価値観が選択に繁栄される。もうひとつ付け加えると、リアルな世界でそれぞれの主人公が負っているマイナスの要素がその価値観を左右する。サロゲートの主人公は子どもを失っており、アバターの主人公は下半身の自由を失っているという設定になっているのも見逃せないファクターである。

アバターではあえてそういう描き方を誇張しているわけだが、バーチャルな世界がリアルな世界よりも遥かにリアリティーがあるということが実に「今日的リアリティー」に満ちている。逆にリアルな世界の方があまりにも単純な力と欲望の構図で動いており、そのことがバーチャル世界を肥大させるエネルギーになっている。主人公のアバターはカッと目を見開くが、リアルな主人公はカプセルの中で目を閉じている。

しかも、とてつもない映像を3Dで見せられ、自分もパンドラという国にいる錯覚を覚える体験をする。私の感覚や認知機能が正常であればあるほどバーチャルなものをリアルに感じるのだから何とも不思議な感じである。

「アバター」のバーチャル・リアリティ―は、映画館で体験してみる価値はある。宣伝しても仕方ないけど、DVDでは味わえない。「サロゲート」と合わせて見ると、なお面白かろう。

しかし、別に無理して見なくても、似たようなもっと不気味で不思議で面白い錯綜や反転は私たちの身の回りにいくらでもある。

大事なことは、自分にとってリアリティとは何かということ。つまり、学校が、教員というアバターと生徒というアバターがすれ違うバーチャル世界になっていないか。教会が、牧師というサロゲートと信徒というサロゲートが戯れているバーチャルな世界になっていないかとういう種類の点検である。

気がつけば、「リアルで自然な私」を、「バーチャルで人工的な私」に化身させ代行させている。

私はバーチャルなセンセイにはならず、リアルなおっさんでいることを選ぼうと決意を新たにした。見事ストレス解消。

2 件のコメント:

  1. エシュコル2010年2月5日 0:26

    どちらか片方を観るとしたら、どっちを選べば好いのだろう?

    返信削除
  2. お奨めっぽいことを書いておいて申し訳ないですが、別にどっちも観なくていいですよ。

    観たからどうということもないです。観なくてもどうということもないです。

    そういうものが流行ってるんだっていうだけのことです。

    返信削除