2010/11/21

寒天を売る観点


ちょっと訳ありの社会見学に行って来た。

「伊那食品工業」は、国内シェア80%を誇る伊那の山の中の寒天の会社である。創業以来、連続して増益増収を続けている奇跡の企業。不景気な昨今の日本にあってこれだけの規模の企業が途切れることなく右肩上がりを続けているのは、ほとんど考えられないことなので、あのトヨタをはじめ、多くの企業がその創業者である塚越氏の経営理念に注目しているそうだ。

しかし、この大躍進は決して利益を追求した結果ではなく、創業以来、社員ひとりひとりの幸せを求めた自然な結果だと言うからさらにびっくり。創業者塚越氏のことばによれば、「利益は健康なからだから出て来るウンチだ」とのこと、「50年間たった一人の社員のリストラもしていない」というのが本当だとすると、外向きのキレイごとではなく、これはなかなかあなどれない本気の姿勢だと感じる。社内には21世紀の100年カレンダーをあちこちに貼り、目先のことではなくずっと先を見通すようにと、徹底している。

健康ブームで寒天に注目が集まったときも、経営規模が拡大することを「あえて」しなかったと言う。企業にとって最大のビジネスチャンスを軽く受け流したことにもちゃんと理由があるのだ。一時のブームにのって無理に設備投資をすれば、ブームが去ったときに必ずそのツケがまわってくる。その時傷つくのは社員であり、会社もダメージが大きい。「責任を持ってキチンと商品を届けられるような身の丈にあった商売が大事だ」とキッパリ言い切る塚越氏。

あくまでも会社はみんなの幸せにあるとし、「凡事継続」「年功序列」「終身雇用」というイマドキの経営理念とはかけ離れたことばを恥ずかしげもなく謳いあげている。
伊那食品工業は、「寒天」というこの世に別に無くてもよさそうなマイナーなものを扱いながら、アメリカ型の能力主義や効率主義で組織をボロボロにしてきた日本の会社経営を一から考え直させる怪物企業なのだ。

このような、地元の方々にとっても誇りであるような素晴らしい会社を一代で築き上げた塚越氏の理念を支えるのは何なのだろうと不思議に思ったが、それは、なんと昔はどこの小学校にでもその像があった二宮尊徳の生き方に原点があった。

「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す。」「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という尊徳のことばが、会社経営のすみずみにまで浸透していたのだ。損得よりも尊徳優先というわけだ。

半日かけてゆっくり見学させてもらったが、会社の敷地の中に、植物園のような自然を生かした庭園や美術館、レストランやショップがある。確かに謳い文句のとおりに、どこをとっても、効率よりも快適さを優先し、それなりの「癒しの空間」を作っている。社員のマナーもサービスもよく、施設もすみずみまでキレイでホスピタリティーかなり高い。

伊那食品工業に古き良き日本人の姿を見た。

2 件のコメント:

  1. どんな訳ありなのでしょうか?

    こういった企業をどうやって見つけたのかも気になりますが、…おもしろい社会見学ですね。

    日本的なものを強い意志で守って頂きたいです。
    最近、光市母子殺害事件の本を読みましたが、政治家に与えられている力は大きいです。企業経営者も政治家も、悪しきものに負けず粘り強く導いて頂きたいです。

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  2. はい、また詳しくお話します。

    最近も話題は山ほどあるのですが、ブログには濃すぎて書けないようなことばかりでして、そういう時には潔くお休みしてここ数日は夜はぐっすり寝てました。

    何であれ、自分の中でもうまく整理がつかないままに発信するのは、「あえて」のねらいがない限り、あまり良くはないと思っています。

    世界中だんだん具体的にヤバくなってきているので、「陰謀論的なこと」や「終末的なこと」は、特に意識して回避していこうと肝に銘じています。そういうのは役割分担として他の方に任せておきます。

    かと言って、身の回りの半径数キロメートルの話だけチマチマ書いているのもどうかと思いつつ、いろいろチェックしていると気が滅入ることばっかり。

    公私ともにやらねばならないことも山のようにどっさり。しかもそれはいずれも簡単には解決なしないことばかり。

    そんな時、思ってもいなかった企業見学となり、面白かったですよ。無料寒天の試食とそば茶以外、何か特別な賄賂を受け取ったわけではありませんが、正直これだけ書きたくなる程度には感動したのです。

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